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生体内を深く・細胞レベルで可視化、バイオイメージング ~ 675㎚を実現した近赤外発光イメージング材料 ~

資料

生体内を深く・細胞レベルで可視化、バイオイメージング_675㎚を実現した近赤外発光イメージング材料

組織名 国立大学法人 電気通信大学大学院 大学院情報理工学研究科 基盤理工学専攻 牧 昌次郎 教授
技術分野 ナノテクノロジー , 医工連携/ライフサイエンス , 環境/有機化学/無機化学
概要

バイオイメージングは、細胞内の酵素などを発光物質(バイオプローブ)で光らせることで、非侵襲的かつリアルタイムに生体内現象を可視化・観察することが可能な技術として近年注目されています。特に、発光イメージングは生体深部の細胞や臓器を可視化できるため、がん治療、再生医療研究等、生命科学や医療技術開発をはじめとするライフサイエンス分野での期待は大きく、以下の技術が求められています。
1)高輝度であること、2)発光ピークが長波長(650nm~800nm:生体の窓領域)本技術では、発光効率が非常に優れているホタルの発光原理を生かし、独自のノウハウにより、生体内深部の観察が可能な長波長、かつ高輝度な発光材料を実現しました。

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詳細

【簡略図】

【背景】

光を使ったバイオイメージングは、大別すると蛍光イメージングと発光イメージングに分けられます。本技術の発光イメージングは、北米産のホタル由来の発光酵素のルシフェラーゼ(Fluc)を触媒とし、ホタル由来の発光基質のルシフェリン(D-luciferin)を生体内部で酸化反応させ、その際に発せられる光を捕捉し可視化することで、生体内での現象を非侵襲的にリアルタイムかつ経時的に観察することが可能な技術です。

特に、生体内における細胞や化合物の局在を可視化する事ができる点で、小動物を用いた創薬研究には不可欠、かつ世界標準のバイオイメージング技術となっているため、生命科学や医療技術開発をはじめとするライフサイエンスの研究ツールとして広く利用されています。特にがん治療、再生医療研究用途の需要は日本のみならず世界各国で急速に伸びています。

また生体内においては、650nm未満の波長の光は、血液など生体組織に吸収されてしまい、外部まで透過しにくいため、生体深部のイメージングを精密に行うには、650nm以上で発光強度が高い、高輝度の発光材料が必要という技術課題がありました。

【技術内容】

〇ホタル発光系の多色化を実現

ホタル由来の発光基質であるルシフェリン(D-luciferin)は、発光酵素ルシフェラーゼ(Fluc)と化学反応することで黄色く光ります。この反応は、すでに世界中で生化学研究等に広く使われています。ホタル以外では、オワンクラゲやウミホタルなどの蛍光・発光物質も用いられていますが、一般に 天然の発光色で使われており、人工材料化されていませんでした。

そのため世界中では、より明るく光る発光システムを持つ生物種の探索、既存システムのFluc遺伝子を改変してより明るく光る人工生物発光システムを開発する研究、ならびにD-luciferinを改変して発光する色を変化させる研究が盛んに行われています。

本技術は、電通大 牧研究室の「発光基質(ルシフェリン)を人工的に改変する」独自のノウハウにより、RGB(赤、黄緑、青)を実現しました。

図1:ホタル発光基質のRGB化

〇高輝度を実現!人工生物発光システム「AkaBLI」

本技術は、これまで開発されてきた近赤外発光基質の産生する光が極端に弱い点、または水溶性が乏しく生体で応用できない等の課題を解決し、ホタル生物発光で675nmの長波長発光を実現しました。

この長波長発光基質AkaLumine-HCl 「TokeOni」(以下、Tokeoni)は組織透過性の高い赤色光を発することに加え、水溶性にも優れ、マウスを用いた実験でD-luciferinよりも最大40倍高い検出感度を示しました。近赤外光を産生できる世界初の実用的な基質としてTokeoniの製品化を実現しました。

さらに、理化学研究所(理研)脳科学総合研究センター細胞機能探索技術開発チームがTokeOni に特化した人工酵素「Akaluc」を開発したことで、発光シグナルを従来比100~1000倍の強さで検出することが可能になりました。

この近赤外発光基質TokeOniと人工酵素Akalucの組み合わせによる人工生物発光システムを「AkaBLI」と命名し、理化学研究所はこのAkaBLIによりマウスの大脳皮質下の領域中の標識神経細胞からの発光を、無麻酔かつ自由行動の状態で非侵襲的に可視化することに成功し、さらにマーモセットの成体でも同様の可視化を実現しました(図2, 2018, Science, doi: 10.1126/science.aaq1067)。

さらに、中・大型実験動物のモデルとしてマイクロミニピッグ®(以下、MMP)の生体イメージングを行い、世界で初めてMMPのイメージング画像の撮像に成功しました。(※1)

図2:マイクロミニピッグ®、マーモセット大脳皮質下のイメージングに成功

○高水溶性を実現

研究室では、Tokeoniの水溶性をさらに向上し、「SeMpai」を開発しました。SeMpai は中性で高い溶解性があり、緩衝液での高濃度投与が可能です。また、SeMpaiは天然酵素(Fluc)との反応により、675 nmの近赤外光を発するため、肺など血流量が多い箇所でも微小ながん細胞(Fluc 発現のがん細胞)を検出することができます(図3)。
(現日本女子大学理学部 化学生命科学科 森屋助教の研究成果)

Int. J. Mol. Sci. 2020, 21(21), 7896 (doi.org/10.3390/ijms21217896)
図3:肺転移した微小がんの検出に成功

現在、更に実用性を高めるため、より輝度が高く、同時に水溶性も高い基質の開発を進めています。また、がん治療、再生医療研究等、医療技術開発に活用していただけるよう、研究機関と連携し多くのエビデンス確立を行っています。

※1:科学技術振興機構(JST)の研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)における FS ステージ シーズ顕在化タイプ(平成 23 年度)、およびハイリスク挑戦 タイプ(平成 25 年度)の支援を受けて、実施したものです。複数の特許出願を行っています。

関連特許:特許第5550035号、特願2020-051705、特許第6011974号
【関連ニュースリリース】
・体の深部を探る世界初の近赤外発光基質を開発(2016年6月14日)
https://www.titech.ac.jp/news/2016/035463.html

・脳の深部を非侵襲的に観察できる人工生物発光システムAkaBLI-霊長類動物にも適用可能、高次脳機能のリアルタイム可視化への応用-(2018年2月23日)
http://www.riken.jp/pr/press/2018/20180223_1/

・生体深部の癌細胞などを可視化する新たな標識材料:
ルシフェリンアナログ『seMpai』を開発(2018年12月17日)
https://www.uec.ac.jp/news/announcement/2018/20181217_1514.html

・全可視光領域で発色する虹色発光標識のポートフォリオを開発-医療・環境診断のマルチカラー発光イメージング手段として期待-(2021年01月26日)
https://www.uec.ac.jp/news/announcement/2021/20210126_3056.html

【技術・ノウハウの強み(新規性、優位性、有用性)】

・D-luciferinを改変して多色化(RGB)の基質ライブラリを保有しているため、バリエーションのある生体イメージングが可能。

・ホタル生物発光で675nmの長波長発光を実現し、これまで難易度の高かった生体深部を細胞レベルでイメージングが可能なため、マウスだけでなく中・大型実験動物のイメージングに期待ができる。

・Tokeoniと特化酵素Akalucの組み合わせAkaBLIにより、天然生物発光システムである従来のD-luciferin /Flucペアと比べ、特に脳の深部イメージングの性能を飛躍的に向上させます。

・SeMpai は緩衝液に対して高い溶解性を示すため、高濃度での投与が可能です。

・有機合成の研究室が開発した発光基質のため、ニーズに合わせて新たなバイオプローブの開発が可能。

【連携企業のイメージ】

本技術の活用に意欲がある企業を歓迎いたします。

例えば、以下の企業へご提案が可能です。

1)ミニブタ・コモンマーモセット・サルなど、中型動物に対するin vivoイメージングを行いたい企業/研究所

2)脳・肺など表皮から深い部位をイメージングしたい企業/研究所

3)長波長発光バイオプローブの活用を希望する医薬品メーカー/研究所

4)ホタル由来ならびにそれ以外の発光酵素のライブラリを保有し、新たなイメージングシステムを開発されたい企業

5)その他、生物発光について技術課題がある企業

【技術・ノウハウの活用シーン(イメージ)】

・バイオプローブとして(腫瘍)治療、再生医療研究(iPS細胞への適用)等、医療技術開発など幅広い用途に活用可能です。

例えば下記の手順で、がん遺伝子の転移現象や治療による生体反応の解析などに活用可能です。

1)ホタルの発光酵素遺伝子(ホタルルシフェラーゼ)を「培養したがん細胞」に組み込んだうえで、マウスなどの実験動物に移植し、担がんモデル動物を作製する。

2)長波長バイオプローブを体外から投与すると、がん細胞内でのみ酵素と基質の化学反応がおき、長波長の発光(赤色)が発生する。

3)発光現象をイメージング装置などで観察する。

※長波長の赤い光は人間の目には見えませんが、実験用測定装置であれば観察可能です。また、生きたまま何日でも観察可能なので、がんがどのように発生し、成長し、転移していくのか、といったことを細胞レベルで追うことが可能になります。

・さらに、基質をカスタマイズすることによって、RGBにわたる幅広い波長帯に対して(=マルチカラー)発光させることが可能です。

【技術・ノウハウの活用の流れ】

お問合せ後、技術面談にて詳しい技術内容をご説明させていただきます。
また、Tokeoni、SeMpaiはご購入、サンプル提供が可能ですので、併せてお問い合わせください。本テーマに限らず、生物発光や、有機合成に関する様々な技術相談にも対応可能です。

【専門用語の解説】

【バイオプローブ】
標識材料とも呼ばれています。生体機能を解析するために有用な低分子有機化合物を指します。バイオプローブにより、細胞内の遺伝子発現を可視化するなど、ライフサイエンス研究において有用な知見を得ることが可能です。

【ホタルの発光原理】
ホタルの発光は発光基質(ルシフェリン)に発光酵素(ルシフェラーゼ)が作用し、空気中の酸素を使って酸化反応することで発光します。生物発光のエネルギー変換効率の高さから、世界中で研究が進められていますが、多くはルシフェラーゼに関する研究です。
牧先生は、発光基質自体を人工的に合成していることにノウハウと新規性があります。なお、ホタルの発光は2段階のプロセスを経て行われます。

【in vivo】
“生きた生体内で(の)”という意味で、マウス等の実験動物を用い、生体内に直接被験物質を投与し、生体内や細胞内での薬物の反応を検出する際などに用います。試験管内で実験するのではなく、生きた動物や細胞を用いて実験する際に、条件を明確にするために用いる用語です。

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